コラム

我が家の秘伝レシピ

今年4月にNHKラジオの生中継の番組が熊野町から有りました。番組内でアナウンサーの方が、筆は一種類の動物の毛で出来ていると思ってたと言われていました。

そのように思われている方も、多いようです。

もちろん純羊毛筆を代表とする一種類の原毛によって作られる筆もあります。けれども、書きやすく、日本の書、特に平仮名が綺麗に書けるように何種類もの原毛を混ぜ合わせて作る兼毫筆が、小筆や初心者用から書家をはじめとする専門家の使用される筆として一般的です。

どの毛をどのくらい使うかという組み合わせを『毛組』と言います。毛組によって出来る筆は、形も質も価格も変わってきます。料理のレシピに相当すると言ってよいかと思います。

職人さん・筆屋によって毛組はそれぞれオリジナルで門外不出ですが、弊社の毛組帳からひとつ公開します。                         こちらは現在も製造している筆の毛組で昭和57年のものです。

羊毛・馬毛・天尾(あまお、馬の尾)・狸・鹿・ナイロンが使用されています。

数字が分量を重さで示しており、ナイロンはgでそれ以外は匁を単位としています。

ちなみに1匁は3.75gで、五円硬貨の重さと同じです。

                        

交毛(まぜけ)は、馬の胴毛。精品羊毫は羊毛の粗い毛で花精品羊毫は、黒っぽいものです。染0.10×6・0.15×5は、ナイロン。上爪(じょうづめ)は、羊毛の少し良質のもの。黒小唐(くろこと)は、鹿の夏毛。花イカツは、茶色の馬の尾毛の先のないもので太くて硬く腰に入れる。赤長・赤短は、馬の毛で衣毛になります。

この毛組で初めて作った時は、右下に薄く鉛筆書きであるように、685対つまり1370本できたようです。                  

こうして毛組帳があっても、入手できなくなる毛も出てきます。例えば上爪という毛は今流通していないので、他の羊毛を使用しています。また入手可能なものでも毛質が一定とも限りません。その場合、よく毛質を見極めて完成した筆が以前のものと同じになるようにしなければなりません。

これは、筆作りにおいてとてもとても重要なことなのです。